異暦98年6月7日 午後2時35分
サウ洋近海航行中のナイツロード本部「レヴィアタン」甲板にて
「先輩、今月で辞めちゃうんですか?」
「ああ、次の任務が終わったらすぐな」
「それにして急な話ですけど…一体何があったんですか?」
「お前、ここ入って何年目だ?」
「えっと、確か先月で3年目ですね」
「同期のヤツは何人いる?」
「3人です。みんな仲はいいですよ」
「俺はここへ来て10年になる。俺の同期は5人くらいはいた」
「そうなんですか…それで、その同期の方は今も元気ですか?」
「死んだよ」
「え?」
「全員任務で死んだよ。俺以外はな。1人長生きしてたヤツはいたんだが、そいつも今年の頭あたりに死んでる」
「そんな…」
「ここは傭兵組織だからな…朝の食堂で隣に並んで飯食ってたヤツが、昼には死体に変わってるような事は珍しくない。お前もそこら辺気を引き締めた方がいいぞ」
「はい…」
「もしかして先輩が辞めるキッカケになったのは、その人が亡くなったから…」
「それもあるかもしれんが…一番の原因は…」
「疲れちまったんだよ」
「疲れた?」
「俺がここに来て10年間山ほど任務をこなしてきたんだが…世界の情勢は中々良くはならねえし、VICEのクソ共も幾ら倒してもゴキブリみてえに湧いて出てきやがる」
「その内、何でこんな事をしてるんだろうなって思いが膨らんできて…今はこの有様だ。もう俺は殺し合いはゴメンだ。ここを辞めたらVICEの侵攻が届いてねえサウ洋の方面に移ってひっそりと暮らすつもりだ」
「………」
「さて、そろそろ作戦のミーティングの時間だ。長話に付き合わせちまって悪かったな。これでもうお前とも会う事はなくなるかもしれんが…お前はまだ若い。若いまま死ぬんじゃねえぞ」
「…はい!先輩!今までお疲れ様でした!」
───その数日後、先輩が亡くなったとの報告が届いた。任務で仲間を逃す為に殿を勤めて深手を負い、帰還後にその傷が悪化して息を引き取ったそうだ。
僕は…先輩や先輩の同期の方の分まで、しっかり生きようと思います。